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閲覧履歴

エンレスト錠200mg

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)

1錠 171.1円

添付文書番号

2190041F1027_1_05

企業コード

300242

作成又は改訂年月

2023年5月改訂
(第5版、効能変更、用法及び用量変更)

日本標準商品分類番号

872149

薬効分類名

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)

承認等

販売名

エンレスト錠50mg

販売名コード

2190041F1027

販売名英字表記

Entresto Tablets

販売名ひらがな

えんれすとじょう50mg

承認番号等

承認番号
30200AMX00504000

販売開始年月

2020年8月

貯法、有効期間

貯法
室温保存
有効期間
3年

規制区分

処方箋医薬品 注1)
注1)注意―医師等の処方箋により使用すること

販売名

エンレスト錠100mg

販売名コード

2190041F2023

販売名英字表記

Entresto Tablets

販売名ひらがな

えんれすとじょう100mg

承認番号等

承認番号
30200AMX00502000

販売開始年月

2020年8月

貯法、有効期間

貯法
室温保存
有効期間
3年

規制区分

処方箋医薬品 注2)
注2)注意―医師等の処方箋により使用すること

販売名

エンレスト錠200mg

販売名コード

2190041F3020

販売名英字表記

Entresto Tablets

販売名ひらがな

えんれすとじょう200mg

承認番号等

承認番号
30200AMX00503000

販売開始年月

2020年8月

貯法、有効期間

貯法
室温保存
有効期間
3年

規制区分

処方箋医薬品 注3)
注3)注意―医師等の処方箋により使用すること

一般的名称

サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物

禁忌(次の患者には投与しないこと)

  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  2. アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリル水和物)を投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者
  3. 血管浮腫の既往歴のある患者(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬又はアンジオテンシン変換酵素阻害薬による血管浮腫、遺伝性血管性浮腫、後天性血管浮腫、特発性血管浮腫等)
  4. アリスキレンフマル酸塩を投与中の糖尿病患者
  5. 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
  6. 妊婦又は妊娠している可能性のある女性

組成・性状

組成

エンレスト錠50mg
有効成分
1錠中サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物  56.551mg
サクビトリルバルサルタンとして  50mg:サクビトリル24.3mg及びバルサルタン25.7mgに相当
添加剤
セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、無水ケイ酸、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、三二酸化鉄、酸化鉄
エンレスト錠100mg
有効成分
1錠中サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物  113.103mg
サクビトリルバルサルタンとして  100mg:サクビトリル48.6mg及びバルサルタン51.4mgに相当
添加剤
セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、無水ケイ酸、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、三二酸化鉄
エンレスト錠200mg
有効成分
1錠中サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物  226.206mg
サクビトリルバルサルタンとして  200mg:サクビトリル97.2mg及びバルサルタン102.8mgに相当
添加剤
セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、無水ケイ酸、ヒプロメロース、ポリエチレングリコール、酸化チタン、三二酸化鉄、酸化鉄

製剤の性状

エンレスト錠50mg
外形


大きさ
大きさ(長径)
13.1mm
大きさ(短径)
5.2mm
大きさ(厚さ)
3.6mm
質量0.208g
識別コードNVR LZ
性状
青紫白色の楕円形のフィルムコーティング錠
エンレスト錠100mg
外形


大きさ
大きさ(長径)
13.1mm
大きさ(短径)
5.2mm
大きさ(厚さ)
3.7mm
質量0.208g
識別コードL
性状
微黄色の楕円形の割線入りのフィルムコーティング錠
エンレスト錠200mg
外形


大きさ
大きさ(長径)
15.1mm
大きさ(短径)
6.0mm
大きさ(厚さ)
5.4mm
質量0.412g
識別コードNVR L11
性状
うすい赤白色の楕円形のフィルムコーティング錠

効能又は効果

〈エンレスト錠50mg・100mg・200mg〉
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
〈エンレスト錠100mg・200mg〉
高血圧症

効能又は効果に関連する注意

〈慢性心不全〉
  1. 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
  2. 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。
〈高血圧症〉
  1. 過度な血圧低下のおそれ等があり、原則として本剤を高血圧治療の第一選択薬としないこと。

用法及び用量

〈慢性心不全〉
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。
〈高血圧症〉
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回200mgを1日1回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、最大投与量は1回400mgを1日1回とする。

用法及び用量に関連する注意

〈慢性心不全〉
  1. 次の患者では、患者の状態を注意深く観察し、増量の可否を慎重に判断すること。
    • 腎機能障害(eGFR 90mL/min/1.73m2未満)のある患者
    • 中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)のある患者
    • 血圧が低い患者
  2. 本剤の増量は、臨床試験で用いられた血圧、血清カリウム値及び腎機能に関する以下の基準も目安に検討すること。
    臨床試験で用いられた増量時の基準
    血圧
    症候性低血圧がみられず、収縮期血圧が95mmHg以上
    血清カリウム値
    5.4mEq/L以下
    腎機能
    eGFR 30mL/min/1.73m2以上かつeGFRの低下率が35%以下
    ※1回50mgから1回100mgへの増量時の基準であり、臨床試験ではいずれの項目も満たす患者が増量可能とされた。
〈高血圧症〉
  1. 本剤はサクビトリル及びバルサルタンに解離して作用する薬剤であるため、本邦のバルサルタンの承認用法及び用量での降圧効果、本剤の降圧効果を理解した上で、患者の状態、他の降圧薬による治療状況等を考慮し、本剤適用の可否を慎重に判断するとともに、既存治療の有無によらず1回100mgを1日1回からの開始も考慮すること。
  2. 慢性心不全を合併する高血圧症患者では、原則として慢性心不全の用法及び用量に従うこととするが、慢性心不全の発症に先んじて高血圧症の治療目的で本剤を使用している場合等は、患者の状態に応じて適切に用法及び用量を選択すること。

重要な基本的注意

  1. 血管浮腫があらわれるおそれがあるため、本剤投与前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと。
  2. 症候性低血圧があらわれるおそれがあるため、特に投与開始時及び増量時は患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。
  3. アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬投与中に肝炎等の重篤な肝障害があらわれたとの報告があるので、肝機能検査を実施するなど観察を十分に行うこと。
  4. 脱水があらわれるおそれがあるため、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、本剤の減量、投与中止や補液等の適切な処置を行うこと。
  5. 手術前24時間は投与しないことが望ましい。麻酔及び手術中にレニン-アンジオテンシン系の抑制作用による低血圧を起こす可能性がある。
  6. 降圧作用に基づくめまい、ふらつきがあらわれることがあるので、高所作業、自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させること。

特定の背景を有する患者に関する注意

合併症・既往歴等のある患者

〈効能共通〉
  1. 両側性腎動脈狭窄のある患者又は片腎で腎動脈狭窄のある患者
    治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与は避けること。腎血流量の減少や糸球体濾過圧の低下により急速に腎機能を悪化させるおそれがある。
  2. 高カリウム血症の患者
    治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与は避けること。高カリウム血症を増悪させるおそれがある。
    高カリウム血症のリスク因子のある患者(腎機能障害、糖尿病、低アルドステロン症の患者又はカリウム含量が高い食事を摂取している患者等)では、血清カリウム値をモニタリングすること。
  3. 脳血管障害のある患者
    本剤の降圧作用により、脳血流不全を引き起こし、病態を悪化させるおそれがある。
〈慢性心不全〉
  1. 血圧が低い患者
    定期的に血圧を測定し、患者の状態を十分に観察しながら投与すること。
〈高血圧症〉
  1. 厳重な減塩療法中の患者
    低用量から投与を開始し、増量する場合は徐々に行うこと。急激な血圧低下(失神及び意識消失等を伴う)を起こすおそれがある。

腎機能障害患者

〈慢性心不全〉
  1. 軽度又は中等度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2以上90mL/min/1.73m2未満)のある患者
    血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。
  2. 重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)のある患者
    本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがあり、臨床試験では除外されている。
〈高血圧症〉
  1. 軽度又は中等度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2以上90mL/min/1.73m2未満)のある患者
    血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。
  2. 重度の腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)のある患者
    本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。低用量から開始することを考慮すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。
  3. 血液透析中の患者
    本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察すること。低用量から投与を開始し、増量する場合は徐々に行うこと。本剤の血中濃度が上昇するおそれや、急激な血圧低下(失神及び意識消失等を伴う)を起こすおそれがあり、臨床試験では除外されている。

肝機能障害患者

〈効能共通〉
  1. 重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある患者
    投与しないこと。重度の肝機能障害のある患者では本剤の血中濃度が上昇するおそれがあり、臨床試験では除外されている。
〈慢性心不全〉
  1. 中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)のある患者
    本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。
〈高血圧症〉
  1. 中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)のある患者
    本剤投与の可否を慎重に判断し、投与する場合には血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること。低用量から開始することを考慮すること。本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。

生殖能を有する者

  1. 妊娠する可能性のある女性
    妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている,
    本剤の投与に先立ち、代替薬の有無等も考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。
    1. 本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。
    2. 次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。
      • 妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。
      • 本剤投与中及び本剤投与終了後一定期間は適切な避妊を行うこと。
      • 妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。
      • 妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。

妊婦

妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。本剤を投与した動物実験(ラット、ウサギ)において、サクビトリルの活性代謝物(sacubitrilat)及びバルサルタンの曝露量が、臨床用量投与時の曝露量の0.06倍及び0.72倍(ラット)並びに0.03倍及び2.04倍(ウサギ)に相当する用量から、胚・胎児致死(着床後死亡率の高値)及び催奇形性(水頭症)が認められたとの報告がある。また、バルサルタンを含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬並びにアンジオテンシン変換酵素阻害薬で、妊娠中期~末期に投与を受けた妊婦において、母体及び胎児への影響(自然流産、胎児・新生児死亡、羊水過少症、胎児・新生児の低血圧、腎機能障害、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全、羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、脳、頭蓋顔面の奇形、肺の発育形成不全等)が報告されている,

授乳婦

授乳しないことが望ましい。本剤のヒトにおける乳汁中への移行は不明であるが、動物実験(ラットの授乳期経口投与)で、乳汁中にsacubitrilat及びバルサルタンの移行が認められた。本剤の投与期間中の授乳により、新生児又は乳児に影響を及ぼすおそれがある。また、バルサルタンの動物実験(ラットの周産期及び授乳期経口投与)において、600mg/kg/日で出生児の低体重及び生存率の低下が認められており、200mg/kg/日以上で外表分化の遅延が認められている。

小児等

小児等を対象とした臨床試験は実施していない。

高齢者

〈慢性心不全〉
  1. 血圧、血清カリウム値及び腎機能等の患者の状態を十分に観察しながら投与すること。特に投与開始時及び増量時は患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。一般に過度の降圧は好ましくないとされている。脳梗塞等が起こるおそれがある。臨床試験において、高齢者では、低血圧、高カリウム血症、腎機能障害の発現が増加することが報告されている。
〈高血圧症〉
  1. 低用量から投与を開始するなど慎重に投与すること。一般に過度の降圧は好ましくないとされている。脳梗塞等が起こるおそれがある。

相互作用

Sacubitrilat及びバルサルタンはOATP1B1及びOATP1B3の基質である。なお、サクビトリル及びsacubitrilatはOATP1B1及びOATP1B3を阻害する。

併用禁忌(併用しないこと)

薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
アンジオテンシン変換酵素阻害薬
アラセプリル
(セタプリル)
イミダプリル塩酸塩
(タナトリル)
エナラプリルマレイン酸塩
(レニベース)
カプトプリル
(カプトリル)
キナプリル塩酸塩
(コナン)
シラザプリル水和物
(インヒベース)
テモカプリル塩酸塩
(エースコール)
デラプリル塩酸塩
(アデカット)
トランドラプリル
(オドリック)
ベナゼプリル塩酸塩
(チバセン)
ペリンドプリルエルブミン
(コバシル)
リシノプリル水和物
(ゼストリル、ロンゲス)
血管浮腫があらわれるおそれがある。これらの薬剤が投与されている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にこれらの薬剤を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しないこと。
併用により相加的にブラジキニンの分解を抑制し、血管浮腫のリスクを増加させる可能性がある。
アリスキレンフマル酸塩
(ラジレス)
(糖尿病患者に投与する場合)
非致死性脳卒中、腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧のリスク増加がバルサルタンで報告されている。
併用によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害作用が増強される可能性がある。

併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがあるため、これらの薬剤と併用すべきでない。
併用によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害作用が増強される可能性がある。
アリスキレンフマル酸塩
腎機能障害、高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがある。
なお、eGFRが60mL/min/1.73m2未満の腎機能障害のある患者へのアリスキレンフマル酸塩との併用については、治療上やむを得ないと判断される場合を除き避けること。
併用によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害作用が増強される可能性がある。
アトルバスタチン
併用によりアトルバスタチンの血中濃度が上昇するおそれがある。
本剤は、OATP1B1及びOATP1B3を介する薬剤の肝臓への取り込みを阻害する可能性がある。
PDE5阻害剤
シルデナフィル等
高血圧症患者において、本剤とシルデナフィルとの併用により、本剤単独投与よりも血圧低下が認められたとの報告がある。本剤の投与を受けている患者においてシルデナフィル又は他のPDE5阻害剤の投与を開始する際には注意すること。
PDE5阻害剤は本剤の投与により増加するcGMPの分解を阻害する。
カリウム保持性利尿薬
トリアムテレン
スピロノラクトン
エプレレノン等
カリウム補給製剤
塩化カリウム
血清カリウム値及び血清クレアチニン値が上昇するおそれがある。
本剤のアルドステロン分泌抑制によりカリウム貯留作用が増強する可能性がある。
危険因子:腎機能障害
ドロスピレノン・エチニルエストラジオール
血清カリウム値が上昇することがある。
バルサルタンによる血清カリウム値の上昇とドロスピレノンの抗ミネラルコルチコイド作用によると考えられる。
危険因子:腎障害患者、血清カリウム値の高い患者
トリメトプリム含有製剤
スルファメトキサゾール・トリメトプリム
血清カリウム値が上昇することがある。
血清カリウム値の上昇が増強されるおそれがある。
シクロスポリン
血清カリウム値が上昇することがある。
高カリウム血症の副作用が相互に増強されると考えられる。
利尿降圧剤
フロセミド
トリクロルメチアジド等
急激な血圧低下(失神及び意識消失等を伴う)を起こすおそれがある。また、利尿作用が増強されるおそれがある。
高血圧症患者においては、低用量から本剤の投与を開始し、増量する場合は徐々に行うこと。
利尿降圧剤投与中は血漿レニン活性が上昇しており、これらの薬剤との併用によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害作用が増強される可能性がある。
重度のナトリウムないし体液量の減少した患者では、まれに症候性の低血圧が生じることがある。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
インドメタシン等
本剤の降圧作用が減弱することがある。
NSAIDsの腎プロスタグランジン合成阻害作用により、本剤の降圧作用が減弱することがある。
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)
インドメタシン等
腎機能を悪化させるおそれがある。
NSAIDsの腎プロスタグランジン合成阻害作用により、腎血流量が低下するためと考えられる。
危険因子:高齢者、体液量が減少している患者(利尿薬使用患者を含む)、腎機能障害患者
リチウム
リチウム中毒を起こすことがレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害剤で報告されている。
利尿薬を使用する場合には、リチウム毒性のリスクがさらに増加するおそれがある。
本剤のナトリウム排泄作用により、リチウムの蓄積が起こると考えられている。
シクロスポリン
クラリスロマイシン
エリスロマイシン
Sacubitrilat又はバルサルタンの曝露量が増加し、副作用が増強されるおそれがある。
OATP1B1又はOATP1B3を阻害することにより、sacubitrilat及びバルサルタンの血中濃度を上昇させる可能性がある。
ビキサロマー
バルサルタンの血中濃度が約30~40%に低下したとの報告がある。本剤の作用が減弱するおそれがある。
リン酸結合性ポリマーにより、同時に服用した場合、バルサルタンの吸収を遅延あるいは減少させる可能性がある。

副作用

次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。

重大な副作用

  1. 血管浮腫(0.2%)
    舌、声門、喉頭の腫脹等を症状として、気道閉塞につながる血管浮腫があらわれることがある。このような場合には直ちに投与を中止し、アドレナリン注射、気道確保等適切な処置を行うこと。血管浮腫が消失しても再投与しないこと。
  2. 腎機能障害(2.4%)、腎不全(0.7%)
  3. 低血圧(8.8%)
  4. 高カリウム血症(4.0%)
    高カリウム血症が発現した場合には、カリウム摂取量の減量など適切な処置を行うこと。
  5. ショック(0.1%未満)、失神(0.2%)、意識消失(0.1%未満)
    冷感、嘔吐、意識消失等があらわれた場合には、直ちに適切な処置を行うこと。
  6. 無顆粒球症注)(頻度不明)、白血球減少注)(0.1%未満)、血小板減少注)(頻度不明)
  7. 間質性肺炎注)(0.1%未満)
    発熱、咳嗽、呼吸困難、胸部X線異常等を伴う間質性肺炎があらわれることがあるので、このような場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。
  8. 低血糖注)(頻度不明)
    脱力感、空腹感、冷汗、手の震え、集中力低下、痙攣、意識障害等があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。糖尿病治療中の患者であらわれやすい。
  9. 横紋筋融解症注)(頻度不明)
    筋肉痛、脱力感、CK上昇、血中及び尿中ミオグロビン上昇を特徴とする横紋筋融解症があらわれることがあるので、このような場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。
  10. 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)注)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)注)、多形紅斑注)(いずれも頻度不明)
  11. 天疱瘡注)、類天疱瘡注)(いずれも頻度不明)
    水疱、びらん等があらわれた場合には、皮膚科医と相談すること。
  12. 肝炎注)(頻度不明)

その他の副作用

0.3%以上
0.3%未満
頻度不明
感染症および寄生虫症
咽頭炎注)
血液およびリンパ系障害
貧血注)、好酸球増多注)
代謝および栄養障害
低カリウム血症、食欲減退注)、低ナトリウム血症注)
神経系障害
浮動性めまい
体位性めまい、回転性めまい、頭痛、不眠注)、味覚異常注)、眠気注)、しびれ注)
耳および迷路障害
耳鳴注)
心臓障害
動悸注)、心房細動注)
頻脈注)
血管障害
起立性低血圧
ほてり注)
呼吸器、胸郭および縦隔障害
咳嗽
胃腸障害
下痢、悪心、腹痛注)、便秘注)
嘔吐注)
皮膚および皮下組織障害
蕁麻疹注)
紅斑注)、光線過敏症注)
筋骨格系および結合組織障害
関節痛注)、腰背部痛注)
筋肉痛注)
一般・全身障害および投与部位の状態
疲労、無力症、けん怠感注)、口渇注)
浮腫注)、胸痛注)、発熱注)
免疫系障害
過敏症(発疹、そう痒症、アナフィラキシー反応を含む)
臨床検査
AST上昇注)、ALT上昇注)、血中尿酸値上昇注)、BUN上昇注)、血清クレアチニン上昇注)、血清カリウム値上昇注)、血糖値上昇注)、CK上昇注)
ビリルビン値の上昇注)、LDH上昇注)、血清コレステロール上昇注)、血清総蛋白減少注)、ALP上昇注)
注)バルサルタンの使用上の注意を踏まえて設定した。

臨床検査結果に及ぼす影響

本剤の薬力学的作用により本剤投与後にネプリライシンの基質であるBNPの上昇がみられることから、本剤投与後にBNPを測定する際は値の解釈に注意すること。

過量投与

  1. 症状
    本剤の過量投与により、著しい血圧低下が生じ、意識レベルの低下、循環虚脱に至るおそれがある。
  2. 処置
    著しい低血圧の場合には、患者を仰臥位にし、速やかに生理食塩液等の静脈注射など適切な処置を行うこと。
    なお、sacubitrilat及びバルサルタンは血漿蛋白との結合率が高く、血液透析によって除去できない。

適用上の注意

薬剤交付時の注意
PTP包装の薬剤はPTPシートから取り出して服用するよう指導すること。PTPシートの誤飲により、硬い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更には穿孔をおこして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することがある。

薬物動態

血中濃度

  1. 単回投与
    サクビトリルバルサルタンを経口投与したとき、速やかに溶解し、サクビトリル(体内でエステラーゼにより加水分解され活性代謝物sacubitrilatに変換される)及びバルサルタンに解離する。健康成人男子にサクビトリルバルサルタン(200mg又は400mg)注1)を空腹時に単回経口投与したとき、sacubitrilatとバルサルタンのCmax及びAUCは投与量に応じて増加し、Tmax及びT1/2は投与量に依存しなかった。
    健康成人男子にサクビトリルバルサルタンを単回経口投与したときの薬物動態パラメータ
    薬物動態パラメータ
    200mg
    400mg
    成分
    sacubitrilat
    バルサルタン
    sacubitrilat
    バルサルタン
    Cmax(ng/mL)
    8,480±1,540
    3,980±1,390
    16,200±3,160
    7,400±1,490
    Tmax(h)
    2.0(1.5~3.0)
    1.5(1.0~3.0)
    3.0(1.5~6.0)
    2.0(1.5~4.0)
    AUCinf(ng・h/mL)
    71,800±13,100
    22,200±6,670
    138,000±26,800
    42,900±11,200
    T1/2(h)
    13.4±0.975
    18.9±7.36
    12.1±0.608
    12.6±2.61
    n=8、平均±標準偏差、※:中央値(範囲)
    ○:本剤200mg投与時、■:本剤400mg投与時
    健康成人男子にサクビトリルバルサルタン200mg又は400mgを単回経口投与したときのsacubitrilat及びバルサルタンの血漿中濃度推移(空腹時)(平均値±標準偏差、n=8)
  2. 反復投与
    1. 健康成人にサクビトリルバルサルタン400mgを1日1回5日間連続経口投与したときサクビトリルは投与後4~5日、sacubitrilat及びバルサルタンは投与後3~5日で定常状態に達した。
    2. 健康成人にサクビトリルバルサルタン200mgを1日2回5日間連続経口投与したとき初回及び投与5日目のサクビトリル及びバルサルタンの薬物動態パラメータに累積性は認められなかった。投与5日目のsacubitrilatのAUCは投与1日目の1.6倍であった(外国人のデータ)。

吸収

健康成人にサクビトリルバルサルタン400mg注1)を低脂肪食又は高脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、sacubitrilatのCmaxは空腹時投与に比べそれぞれ19%及び28%減少したが、AUCは、食事の種類及び食事の時期に関わらず、影響は認められなかった。Tmaxは空腹時投与では2時間、食後投与では4~6時間であり、食事の種類にかかわらずいずれも延長する傾向がみられた。サクビトリルバルサルタン400mgを低脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、バルサルタンのCmax及びAUCは、空腹時投与に比べそれぞれ39%及び34%低下した。サクビトリルバルサルタン400mgを高脂肪食の摂取後に単回経口投与したとき、バルサルタンのCmax及びAUCは、空腹時投与に比べそれぞれ40%及び9%低下した。Tmaxの中央値は空腹時投与の1.75時間、食後投与では4時間であり、高脂肪食又は低脂肪食摂取後にいずれでも延長する傾向がみられた(外国人のデータ)。

分布

Sacubitrilat及びバルサルタンのヒト血漿蛋白結合率はそれぞれ約97%及び約94%であり、主な結合蛋白はいずれもアルブミンであった(in vitro)。

代謝

健康成人男子にサクビトリル部位に14C標識したサクビトリルバルサルタン200mgを空腹時単回経口投与したとき、エステラーゼにより加水分解を受け、活性代謝物であるsacubitrilatが主に生成した。
なお、健康成人男子に14C標識したバルサルタン80mgを空腹時単回経口投与したとき、投与8時間後の血漿中には、主として未変化体が存在し、その他に代謝物として4-ヒドロキシ体が認められた。In vitroの試験において主にCYP2C9の関与が示唆されている(外国人のデータ)。

排泄

健康成人男子にサクビトリルバルサルタン200mg又は400mg注1)を空腹時単回経口投与したとき、投与後96時間までに投与量の約55%がsacubitrilatとして、約11%がバルサルタンとして尿中に排泄された。

特定の背景を有する患者

  1. 腎機能障害患者
    軽度又は中等度の腎機能障害患者(軽度:クレアチニンクリアランスが50mL/min以上80mL/min以下、中等度:クレアチニンクリアランスが30mL/min以上50mL/min未満)にサクビトリルバルサルタン400mg注1)を反復経口投与したとき、定常状態においてsacubitrilatのCmax及びAUCは健康成人のそれぞれ約1.5~1.6倍及び約2.1~2.2倍であった。バルサルタンのCmaxは健康成人とほぼ同程度であったが、AUCは健康成人の約1.0~1.4倍であった。重度の腎機能障害患者(クレアチニンクリアランスが30mL/min未満)にサクビトリルバルサルタン400mg注1)を反復経口投与したとき、定常状態においてsacubitrilatのCmax及びAUCは健康成人のそれぞれ約1.6倍及び約2.7倍であった。バルサルタンのCmax及びAUCは健康成人のそれぞれ約0.9倍及び約1.3倍であった(外国人のデータ)。
  2. 肝機能障害患者
    軽度又は中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類A又はB)にサクビトリルバルサルタン200mgを単回経口投与したとき、sacubitrilatのCmaxは健康成人とほぼ同程度であったが、AUCは健康成人の約1.5~1.9倍であった。バルサルタンのCmaxは健康成人とほぼ同程度であったが、AUCは健康成人の約1.2~2.1倍であった(外国人のデータ)。
  3. 高齢者
    65歳以上の高齢者にサクビトリルバルサルタン400mg注1)を単回経口投与したとき、sacubitrilatのCmaxは非高齢者とほぼ同程度であったが、AUCは約1.4倍であった。バルサルタンのCmax及びAUCはいずれも非高齢者のそれぞれ約1.2倍及び約1.3倍であった(外国人のデータ)。

薬物相互作用

  1. アトルバスタチン
    健康成人(28例)に、サクビトリルバルサルタン200mgを1日2回(朝、夕)及びアトルバスタチン80mgを1日1回(朝)で5日目の朝まで反復併用経口投与したとき、アトルバスタチン及びその活性代謝物のCmax及びAUCtauはそれぞれ約1.7~2.1倍及び約1.2~1.3倍になった。Sacubitrilat及びバルサルタンの薬物動態に大きな変化はみられなかった(外国人のデータ)。
  2. In vitro試験
    SacubitrilatはOAT3の基質であり、バルサルタンはOAT3及びMRP2の基質であることが示された。

PharmacokineticsEtc

健康成人に本剤又はバルサルタン製剤注2)を単回経口投与したとき、バルサルタンの薬物動態パラメータは下表のとおりであった,,
バルサルタンの薬物動態パラメータ
バルサルタン含量
例数
Cmax
(ng/mL)
AUCinf
(ng・h/mL)
本剤200mg
103mg
8
3,980±1,390
22,200±6,670
バルサルタン製剤80mg
80mg
30
2,780±1,070
19,800±8,240
バルサルタン製剤160mg
160mg
40
5,770±1,730
38,900±11,100
注1)慢性心不全における本剤の承認された用法及び用量はサクビトリルバルサルタンとして1回最大200mgを1日2回である。
注2)国内で承認されたバルサルタン製剤の用法及び用量は1日1回40~80mg、1回最大160mgである。

臨床成績

有効性及び安全性に関する試験

〈慢性心不全〉
  1. 海外第Ⅲ相試験(PARADIGM-HF試験)
    アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬注1)を含む慢性心不全に関する既存治療下の左室駆出率(LVEF)が低下した外国人慢性心不全(HFrEF)患者注2)[NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度、LVEF35%以下(試験開始後、40%以下より変更)]8442例を対象に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から本剤又はエナラプリルに切り替えて投与し、生命予後改善効果を検証する多施設共同、ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。実薬投与観察期では、エナラプリル10mg(忍容性に懸念がある場合は5mgから)1日2回注3)、本剤100mg 1日2回、200mg 1日2回を順に最長10週間投与し、ランダム化後、二重盲検治療期では目標用量(本剤200mg 1日2回又はエナラプリル10mg 1日2回)を投与した。目標用量に対して忍容でない場合は用量調節(本剤は50又は100mg 1日2回、エナラプリルは2.5又は5mg 1日2回)又は一時中断を可とし、忍容性が良好な最大用量を継続投与した。二重盲検治療期における治験薬の投与期間(中央値)は本剤群24.4ヵ月、エナラプリル群23.5ヵ月であった。
    主要評価項目とした複合エンドポイント(心血管死又は心不全による初回入院)は、下表のとおりであった。
    心血管死又は心不全による初回入院の結果
    本剤群
    (4187例)
    エナラプリル群
    (4212例)
    ハザード比*
    (95%信頼区間)
    n (発現割合%)
    心血管死又は心不全による初回入院
    914
    (21.83)
    1117
    (26.52)
    0.80**
    (0.73, 0.87)
    *:ハザード比及びその95%信頼区間は、投与群と地域を固定効果とするCox比例ハザードモデルで推定した。
    **:p<0.0001。なお、投与群と地域を固定効果とするCox比例ハザードモデルで推定した片側p値であり、第3回中間解析に割り当てられた有意水準(片側α=0.001)に基づく。
    二重盲検治療期の副作用発現頻度は、本剤群で21.65%(910/4203例)、エナラプリル群で23.08%(976/4229例)であった。主な副作用は低血圧(本剤群10.23%、エナラプリル群6.93%、以下同順)、高カリウム血症(4.59%、5.60%)、腎機能障害(2.78%、4.23%)であった。
  2. 国内第Ⅲ相試験(PARALLEL-HF試験)
    アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬注1)を含む慢性心不全に関する既存治療下のLVEFが低下した日本人慢性心不全(HFrEF)患者注2)(NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度、LVEF35%以下)225例を対象に、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から本剤又はエナラプリルに切り替えて投与し、生命予後改善効果を検討する多施設共同、ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。実薬投与観察期では本剤50mg 1日2回を2週間投与し、ランダム化後、二重盲検治療期では本剤100mg 1日2回又はエナラプリル5mg 1日2回を4週間投与後、忍容性が良好な場合に目標用量(本剤200mg 1日2回又はエナラプリル10mg 1日2回注3))に増量した。目標用量に対して忍容でない場合は用量調節(本剤は50又は100mg 1日2回、エナラプリルは2.5又は5mg 1日2回)又は一時中断を可とし、忍容性が良好な最大用量を継続投与した。二重盲検治療期における治験薬の投与期間(中央値)は本剤群32.0ヵ月、エナラプリル群31.2ヵ月であった。
    主要評価項目とした複合エンドポイント(心血管死又は心不全による初回入院)は、本剤群(111例)の30例(27.03%)、エナラプリル群(112例)の28例(25.00%)に認められた。複合エンドポイント発現のエナラプリル群に対する本剤群のハザード比(95%信頼区間)*は1.0881(0.6501、1.8212)であった。なお、本試験はハザード比の点推定値が1未満となることの確認を主たる目的とし、有意差検定を主たる目的とはしていない。
    *:ハザード比及びその95%信頼区間は、投与群及び層別因子であるスクリーニング時のヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)(<1600pg/mL、≥1600pg/mL)を固定効果とするCox比例ハザードモデルで推定した。
    二重盲検治療期の副作用発現頻度は、本剤群で51.35%(57/111例)、エナラプリル群で31.25%(35/112例)であった。主な副作用は低血圧(本剤群17.12%、エナラプリル群4.46%、以下同順)、高カリウム血症(7.21%、7.14%)、腎機能障害(6.31%、7.14%)であった。
    注1)アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を4週間以上投与されている患者が組入れ可能とされた。
    注2)①症候性低血圧を有する、又は収縮期血圧が100mmHg未満の患者、②eGFRが30mL/min/1.73m2未満の患者、③血清カリウム値が5.2mmol/L(mEq/L)を超える患者は除外された。
    注3)国内で承認されたエナラプリルの用法及び用量は5~10mgを1日1回である。
〈高血圧症〉
  1. 国内第Ⅲ相試験
    軽症又は中等症の日本人本態性高血圧症患者1161例(新たに高血圧症と診断された患者3例、高血圧症の既往を有する患者1158例注4))を対象に、本剤200mg、400mg、又はオルメサルタン20mgを投与し、降圧効果を検討する多施設共同、ランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した。ランダム化後、二重盲検治療期では本剤200mg 1日1回、本剤400mg 1日1回(本剤200mg 1日1回を1週間投与後に400mgに増量)又はオルメサルタン20mg 1日1回を8週間投与した。
    主要評価項目とした投与8週時(LOCF*)の平均坐位収縮期血圧のベースラインからの変化量(最小二乗平均値(標準誤差))は、本剤200mg群で-18.21(0.702)mmHg、オルメサルタン20mg群で-13.20(0.700)mmHgであった。本剤200mg群とオルメサルタン20mg群の群間差(最小二乗平均値(標準誤差))は-5.01(0.991)mmHgであり、本剤200mg群でのオルメサルタン20mgに対する優越性が検証された。
    *LOCF:Last observation carried forward
    投与8週時の平均坐位血圧のベースラインからの変化量
    投与群
    (n=例数)
    平均坐位血圧(mmHg)
    収縮期
    拡張期
    投与前値
    変化量
    オルメサルタン20mgに対する群間差
    投与前値
    変化量
    オルメサルタン20mgに対する群間差
    本剤200mg
    (n=387)
    157.7±6.89
    -18.21±0.702
    -5.01±0.991
    (-6.949, -3.061)
    p<0.001#
    94.3±9.38
    -7.76±0.404
    -1.85±0.571
    (-2.976, -0.734)
    本剤400mg
    (n=385)
    158.4±7.29
    -20.18±0.704
    -6.97±0.993
    (-8.922, -5.025)
    94.8±9.76
    -8.79±0.406
    -2.89±0.572
    (-4.008, -1.762)
    オルメサルタン20mg
    (n=389)
    157.6±6.77
    -13.20±0.700
    93.8±9.65
    -5.91±0.404
    投与前値:平均値±標準偏差
    変化量、オルメサルタン20mgに対する群間差:ベースライン値を共変量としたANCOVAモデルにより算出した最小二乗平均値(LSMean)±標準誤差
    ※()内は両側95%信頼区間
    #有意水準0.05に基づく仮説検定の結果。
    本剤200mg群での投与8週時(LOCF)の24時間自由行動下測定による平均収縮期血圧(maSBP)のベースラインからの変化量(平均値)は、24時間にわたるすべての時点で、オルメサルタン20mg群に比べて大きかった。本剤400mg群の変化量は、ほとんどの時点で本剤200mg群に比べて大きかった。
    投与8週時のmaSBPの変化量(平均値)の24時間推移(平均値±標準誤差)
    治療期の副作用発現頻度は、本剤200mg群で4.7%(18/387例)、本剤400mg群で4.4%(17/385例)、及びオルメサルタン20mg群で4.4%(17/389例)であった。主な副作用は、回転性めまい(本剤200mg群0.5%、本剤400mg群0%、オルメサルタン20mg群0%、以下同順)、血中クレアチンホスホキナーゼ増加(0.3%、0.3%、0.5%)、血圧上昇(0%、0%、0.5%)、高カリウム血症(0.5%、0.3%、0%)、体位性めまい(0%、0.3%、0.5%)、浮動性めまい(0.5%、0%、0%)、そう痒症(0%、0.5%、0%)であった。
    注4)新たに高血圧症と診断された患者:観察期開始時及び治療期開始時の平均坐位収縮期血圧がいずれも150mmHg以上180mmHg未満の患者
    高血圧症の既往を有する患者:スクリーニングの少なくとも4週間前から降圧薬の投与を受けておらず、観察期開始時及び治療期開始時の平均坐位収縮期血圧がいずれも150mmHg以上180mmHg未満の患者。またはスクリーニング前4週間以内に降圧薬を使用しており、治療期開始時直前の来院時の平均坐位収縮期血圧が140mmHg以上180mmHg未満、かつ治療期開始時の平均坐位収縮期血圧が150mmHg以上180mmHg未満の患者

薬効薬理

作用機序
サクビトリルバルサルタンは、サクビトリル及びバルサルタンに解離して、それぞれネプリライシン(NEP)及びアンジオテンシンⅡタイプ1(AT1)受容体を阻害する。サクビトリルは、エステラーゼによりNEP阻害の活性体であるsacubitrilatに速やかに変換される。NEP阻害は、血管拡張作用、利尿作用、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)抑制作用、交感神経抑制作用、心肥大抑制作用、抗線維化作用、及びアルドステロン分泌抑制作用を有するナトリウム利尿ペプチドの作用亢進に寄与する。バルサルタンのAT1受容体拮抗作用は、血管収縮、腎ナトリウム・体液貯留、心筋肥大、及び心血管リモデリング異常に対する抑制作用をもたらす。
ナトリウム利尿ペプチド系及びRAASに対する作用
  1. 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)を持続静注したラットにサクビトリルバルサルタンを単回経口投与したとき、用量依存的に血漿中ANP濃度が上昇した。
  2. 低ナトリウム食飼育イヌにサクビトリルバルサルタンを反復経口投与したとき、溶媒投与の対照群と比較して有意な血漿中cGMP濃度の上昇及び血漿中アルドステロン濃度の低下がみられた。
利尿作用
  1. 生理食塩水を持続静注したラットにサクビトリルを十二指腸内投与したとき、ANP投与による尿中ナトリウム排泄は溶媒投与の対照群と比較して有意に増強された。
  2. 正常イヌにsacubitrilatを静脈内投与したとき、ANP投与による利尿及び尿中ナトリウム排泄は溶媒投与の対照群と比較して有意に増強された。
心筋肥大抑制作用
アンジオテンシンⅡを介して誘発されるラット心筋細胞の肥大は、sacubitrilat及びバルサルタン併用投与により抑制された。
抗線維化作用
アンジオテンシンⅡを介して誘発されるラット心線維芽細胞のコラーゲン産生は、sacubitrilat及びバルサルタンの併用投与により抑制された。
降圧作用
  1. ヒトレニン及びヒトアンジオテンシノーゲン遺伝子を導入したダブルトランスジェニックラットにサクビトリルバルサルタンを単回経口投与したとき、用量依存的な降圧作用が認められた。
  2. 高血圧自然発症ラットにサクビトリルバルサルタンを14日間反復経口投与したとき、バルサルタンを単独投与した対照群と同程度の降圧作用が認められた。
  3. Dahl食塩感受性ラットにサクビトリルバルサルタンを14日間反復経口投与したとき、バルサルタンを単独投与した対照群よりも有意な降圧作用が認められた。

有効成分に関する理化学的知見

一般的名称
サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(Sacubitril Valsartan Sodium Hydrate)
化学名
Monosodium 4-{[(2S,4R)-1-(biphenyl-4-yl)-5-ethoxy-4-methyl-5-oxopentan-2-yl]amino}-4-oxobutanoate—disodium(2S)-3-methyl-2-(N-{[2'-(1H-tetrazol-1-id-5-yl)biphenyl-4-yl]methyl}pentanamido)butanoate(1/1)hemipentahydrate
分子式
C24H28NNaO5・C24H27N5Na2O3・21/2H2O
分子量
957.99
性状
白色の粉末である。
化学構造式

承認条件

医薬品リスク管理計画を策定の上、適切に実施すること。

包装

〈エンレスト錠50mg〉
100錠[10錠(PTP)×10]
〈エンレスト錠100mg〉
100錠[10錠(PTP)×10]
500錠[瓶、バラ]
〈エンレスト錠200mg〉
100錠[10錠(PTP)×10]
500錠[10錠(PTP)×50]

主要文献

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社内資料:高血圧自然発症ラットにおける降圧作用(2020年6月29日承認、CTD2.6.2.2.5.7)[20200245]
22
社内資料:Dahl食塩感受性ラットにおける降圧作用(2020年6月29日承認、CTD2.6.2.2.5.7)[20200246]

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